お迎えに行くと、腕に見覚えのないあざがある。連絡帳には何も書かれていない。家でのごっこ遊びで、人形に「早くしなさい」ときつい声で言っている。朝、園の門の前で泣いて動かなくなる日が増えた。

ひとつひとつは、どれも決め手になりません。「自分の気にしすぎかも」「うちの子が甘えているだけかも」と、ご自身を納得させようとするお母さん、お父さんも多くおられます。それでも違和感が重なってくると、子ども同士のことではなく、先生の関わり方のほうではないか、と頭をよぎるようになります。

そう考えること自体に、強い後ろめたさを感じてしまう方もおられます。毎日大切なお子さんを預けている相手だからこそ、疑いたくないと思うのは当然のことです。

子ども同士のトラブルについては保育園・幼稚園での子ども同士のトラブル、気になったときにに書きました。この記事は、園の職員の関わり方に疑問や不安があるときの話です。

2025年10月に始まった「通告」の仕組み

保護者の方がひとりで抱え込まなくてよい、法律の仕組みがあります。2025年10月1日から、改正された児童福祉法により、保育所の職員による虐待を自治体に知らせる「通告」の仕組みが設けられました。国や市区町村の案内では「通報」と書かれていることも多いです。

同法33条の11は、保育所の園長や職員が、虐待をはじめ、子どもの心や体に悪い影響を与える行為をしてはならないと定めています。ここでいう虐待は、条文の言葉を少しかみくだくと、次の4つです(同法33条の10第1項)。

  • けがをさせる、またはけがをさせるおそれのある暴力
  • わいせつな行為
  • 食事を極端に減らす、長い時間放っておくなど、保育をひどく怠ること
  • ひどい暴言や、極端に拒む、突き放すといった態度など、心に深い傷を与える言動

こども家庭庁と文部科学省の「保育所や幼稚園等における虐待の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」(2025年8月改訂)は、それまで使っていた「不適切な保育」という区分を用いず、この虐待の定義を軸に整理し直しています。一つひとつは虐待に当たらない関わりでも、振り返りや改善がされないまま繰り返されれば虐待になりうる、という考え方です。4つのどれかにはっきり当たるとは言えない関わりでも、気になることがあれば、記録を残して伝えておく意味があります。

そのうえで同法33条の12第1項は、虐待を受けたと思われる子どもを発見した者は、すみやかに都道府県や市町村に通告しなければならない、と定めています。

不安を感じている保護者の方に、知っておいていただきたいことが2つあります。

  1. 通告できるのは、園の職員だけではありません。 条文には「発見した者」とあり、保護者の方も含まれます。
  2. 確証がなくても、「思われる」段階で通告できます。 虐待があったとはっきり証明してから通告する、という仕組みにはなっていません。事実を確かめるのは通告を受けた自治体の役割で、必要があると認めるときは、事実を確かめたり、園に指導や助言をしたりすることになっています(同法33条の14第2項、3項)。

認定こども園、幼稚園、認可外保育施設も、それぞれの法律で同じ仕組みの対象になっています。通告の窓口は園のある市区町村が案内していることが多いので、迷われたら、まずは市区町村に問い合わせてみてください。

園に聞く前に、手元に残しておきたい記録

園に確認する前に、まずは記録を残しておくことが、お子さんを守る第一歩になります。

あざや傷があるとき。 その日のうちに写真を撮ります。日付が残るようにし、定規などを添えて、大きさが分かるように撮影してください。痛がる、腫れている、できる場所が不自然だと感じるときは小児科を受診し、「園で何かあったかもしれない」と医師に伝えておきます。

お子さんの言葉。 口にしたことは、話したとおりに書き留めます。「先生がこわい」だったのか、「○○先生がこわい」だったのか。どんな場面で言ったのかもメモします。大人の言葉に言い換えると、あとでニュアンスが変わってしまうため、そのまま残すことが大切です。

連絡帳と、やりとりの記録。 連絡帳は手元に保管します。園に返すものなら、先に写真を撮っておきましょう。お迎えのときに先生から言われたことも、反対に何も触れられなかったことも、日付と一緒にメモしておきます。

記録の詳しい残し方はいじめに気づいたとき、まず残しておきたい記録にもまとめています。

何度も聞かない

ここが、いちばん気をつけていただきたいところです。

小さな子どもは、大人の聞き方に合わせて答えを作ってしまうことがあります。「先生にたたかれたの?」と聞くと、違っていてもうなずいてしまうことがあるのです。同じことを何度も聞くと話が少しずつ変わり、あとで事実を確かめるときに、最初に何を話していたのかが分からなくなってしまいます。

聞くときは「今日はどんなことがあった?」といったやさしい問いかけで、一度だけにとどめてください。出てきた言葉をそのままメモし、それ以上は無理に掘り下げないこと。少し物足りなく感じるかもしれません。それでも、そうすることで、お子さん自身の言葉をそのまま残すことができます。

園への確認の仕方

園に事情を聞いてみると、「お昼寝の前に転んだ」「お友だちとぶつかった」など、納得のいく説明がつくこともあります。その説明に安心できるのであれば、そこで解決としてよいのです。

確認をするときは、担任の先生ではなく、園長とお話しされるのが基本です。疑いが担任に向いている場合は、なおさらです。確認したいのは次の点です。

  • その日、その時間帯に、誰がお子さんを見ていたか
  • 園として、どのような事実確認を行ったか
  • 確かめた結果と、今後どのような対応をするか

口頭で話した内容は、その日のうちに短くメールや連絡帳で送っておきます。「本日、○日のあざについてお話しし、確認していただけるとのことでした。よろしくお願いいたします」。この程度の文章で十分です。

弁護士が園に書面を送るとどうなるか

園の説明に納得がいかない。確認すると言われたまま、報告がない。不安が残ったまま、同じ職員がお子さんを担当している。そのようなときに、弁護士が保護者の方の代理人となり、園へ書面を送るという方法があります。

書面には、弁護士が代理人になったこと、確認を求める事実、保存してほしい記録、回答の期限などを書き、内容証明郵便で送ります。いつ、誰に、どのような内容の書面を出したかを、郵便局が証明してくれる送り方です。

ただし、あらかじめお伝えしておかなければならない、できないこともあります。弁護士の書面には、園に何かを強制する法的な効力はありません。自治体の指導とも異なります。書面を出せば園の対応が変わる、と約束できるものでもありません。

それでも、弁護士からの書面が届くと、園の中での問題の扱われ方が変わることがあります。私がこの書面に最も期待しているのは、抑止力です。疑問の残る関わり方を、園の中でうやむやなまま続けさせない環境をつくることです。

1. 園長ひとりの判断で終わらなくなる

弁護士名の書面が届くと、園長個人の判断だけで処理することは難しくなり、園の運営元に報告が上がるのが通常です。私立の園なら運営している法人や会社、公立の園なら市区町村です。園の側も、弁護士に相談することが多いと思います。

その結果、園の運営に携わる何人もの大人が、この問題を知ることになります。確認のあいだ、その職員をクラスの担当から外すか。保育の体制を見直すか。そうした判断を、園が組織として考えることになります。知る人が増えるほど、不適切な関わりは続けにくくなります。

2. 現場の記録が消えにくくなる

私は弁護士になる前、保育園で保育士として働いていました。保育の現場では、日々多くの記録が作られています。

  • 保育日誌
  • お昼寝中の見守りの記録(午睡チェック表)
  • 勤務表
  • けがに至らなかった危ない場面の報告書(ヒヤリハット報告書)

防犯カメラがある園なら、その映像もあります。

書面では、これらの記録を具体的に挙げて、破棄や消去をせずに保存するよう求めます。この求めを出したあとに記録が消えていれば、なぜ消えたのかが、それ自体問われることになります。

防犯カメラの映像は、一定の日数で自動的に上書きされる設定になっていることが多いようです。保存を求めるなら、早いほうが残っている見込みがあります。

3. 園の回答が書面で残る

口頭での説明は、あとから「そういう意味ではなかった」と言い直すことができます。書面で出された回答は、のちに自治体へ通告するときや、損害賠償を検討するときに、そのまま資料になります。園の側もそれを理解しているので、十分に確かめないまま回答することはしにくくなります。

謝罪や賠償といった話し合いは、そのあとでじっくり進めればよいのです。書面を送る第一の目的は、同じことが明日も起きないようにし、お子さんの安全を守ることだと、私は考えています。

弁護士の名前を表に出すかどうか

お子さんが今後もその園に通い続けるなら、毎朝笑顔で預けたいというお気持ちもあるでしょう。弁護士の名前で書面が届くことで、園との関係がぎくしゃくしてしまうおそれは否定できません。

そのため、弁護士の関わり方にはいくつかの段階があります。表に出る度合いの小さい順に並べると、次のとおりです。

  1. 保護者の方のお名前で出す書面を、弁護士が一緒に作る(弁護士は裏方に徹する)
  2. 園長との面談に、弁護士が同席する
  3. 弁護士が代理人となり、弁護士の名前で書面を送る

園の受け止め方がいちばん大きく変わるのは、弁護士の名前で送ったときです。そのぶん、園との関係への影響も大きくなります。お子さんがこの先もその園に通うのか、転園も考えているのかによって、選ぶ形は変わってきます。ご家族の意向を一番に考えながら、一緒に決めていきましょう。

自治体への通告と、警察への相談

自治体への通告は、園からの回答を待たなければできない、というものではありません。園と話し合っている最中でも、弁護士から書面を送ったあとでも、並行して進められます。

また、あざやけががあるなど、行為の内容によっては、暴行罪や傷害罪に当たる可能性もあります。状況に応じて、警察に相談することも考えます。

SNSや口コミサイトへの書き込み

どれほど不安や怒りがあっても、園や職員を特定できる形で、SNSや口コミサイトに書き込むことはお控えください。書いた内容が事実であっても、名誉毀損に問われるおそれがあります。十分に確かめないまま広まった情報は、お子さんがこれから過ごす場所にも影を落としかねません。

ご相談でお手伝いできること

  • 手元にある写真やメモをもとに、いま何が言えて、何がまだ言えないかを一緒に整理する
  • 園長との面談で確認すべきことの整理や、面談への同席
  • 記録の保存と事実確認を求める書面の作成、代理人としての送付
  • 自治体へ通告するときの内容や伝え方の整理

書面を作成・送付する場合の費用は費用のページをご覧ください。

対面・電話・オンラインでのご相談は30分5,500円(税込)、メールでのご相談は初回無料です。

「まだ確信が持てない」「ただの疑いかもしれない」。そのままの状態で大丈夫です。お子さんにとってどうするのがよいか、一緒に考えていきましょう。